わたし好みの新刊   201611

『クマゼミから温暖化を考える』  沼田英治著  岩波ジュニア新書

 このところ,大阪の夏は一頃のアブラゼミは影をひそめクマゼミの大合唱となる。

庭木の樹木を見てもクマゼミの抜け殻の数はすぐに10個や20個は見つかる。確か

にてクマゼミは大繁殖している。また,今まで見なかったツマグロヒョウモンやナ

ガサキアゲハもよく見かけるようになった。「これらの昆虫の異変はきっと地球温

暖化が原因だろう」とだれしも思う。しかし,確たる証拠は素人目ではつかめない。

昆虫生理学研究者の著者は,クマゼミの生態研究から地球温暖化との関係について,

ひとつひとつ実験的に確かめていく。その過程がくわしく紹介されている。

 初めの項で,地球温暖化についても著者なりの見解を述べている。地球温暖化

の原因については今もいろいろと議論がなされているが,確実に温暖化が進んで

いることは事実として受け止めている。その温暖化が昆虫にいろいろと変化をもた

らしていることを話した上で,セミの生活に触れていく。セミは冬を卵で過ごし翌

春に幼虫になって地下にもぐり平均7年目ぐらい夏に地上に出て成虫となる。その

パターンを考えた上で,クマゼミが大阪という都会で年々増えている原因を数量的

に突きとめていく。非常に気の長い緻密な作業である。たんに〈夏の平均気温が高

くなったからクマゼミが増えた〉とは簡単に結論に結びつかない。クマゼミが夏に

増加している原因は〈冬の寒さが緩んできたからだろうか〉〈都市の乾燥化にある

のだろうか〉〈いや,都会地での土の硬さが関係しているのだろうか〉〈雨期が早く

なっていることと関係しているのだろうか〉〈鳥から逃げるたくみさがクマゼミ増

加につながっているのだろうか〉など,いくつもの仮説が取り上げられている。

一つ一つの仮説から慎重に実験を重ねて結論を導いている。

夏の昆虫異変もさることながら,著者は都市部のように生態系が単純になってき

ていることにも警鐘をならしている。      

                       2016,06刊 820

 

『草刈りをするハチ―アシナガバチの生活』 須田貢正/作・写真 六曜社

 楽しい科学読み物が久々に出版された。著者はなんと音楽学園卒で作曲や合唱組

曲も作っているという音楽家。山間に居住して農業にも親しんでおられる。ふとし

たことから,その著者とアシナガバチのドラマが始まっていく。文章は縦書き読み

物風である。(/改行)

「七月のある日のことでした。/家の ものほしに、アシナガバチの巣が 落ち

ていました。/どうやら、夕べの台風で、ふりおとされたようです。/のきしたに、

/巣を かけたあとが ありました。/ハチのおかあさんはこまっています。

/アリに見つかったら、たいへんなことになるからでした。/せっかく そだ

てている こどもたち(幼虫)を、/みんな 食べられてしまいます。/でも、

/ハチのおかあさんには、/落ちてしまった巣を、/どうすることもできません。

/そこで/わたしは 巣を/庭の木に うつしてやることにしました。」

 著者は農業体験もしているのでハチの習性はよく心得ている。庭の木に移した

ハチの巣を通してハチの行動を毎日のように観察して写真に記録していく。

「やがて、/はたらきバチが つぎつぎに、/たんじょうしていきます。はたら

きバチは みんな メスバチです。/名前のとおり よく はたらきます。

/夏の あつい日には、/羽を ふるわせ、/巣を ひやします。/そだてて

いる こどもたちを、/あつさから 守るためです。」

と続く。クローズアップ写真を並べながら,はたらきアリのさまざまな奮闘ぶ

りが紹介されていく。やがて,夏も終わりになるとオスバチとメスバチが生ま

れ,新女王バチの誕生して新しい命が受け

継がれていく。「コノアシナガバチは、わたしにいろいろのドラマを見せてくれ、

わたしを夢中にさせ

てくれたものでした。」と,楽しいハチとの出会いを語っている。ついついと

ハチの行動に引き込まれていく楽しい本である。

                       20164月 1,400

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